普段何気なく使っているてぬぐい。でも、よく見てみると染め方によって違いがあるのをご存知ですか?
伝統的なてぬぐいは、大きく「捺染(なっせん)」と「注染(ちゅうせん)」という2つの染色方法があります。実際に染工場にお邪魔し、染め方や職人のこだわりをご紹介したいと思います。
「捺染」は顔料や染料を直接生地に刷る、昔からの伝統的な染め方です。1色につき型を1つつくり、繊維の表面に色のり(染料とのりが混ざったもの)を刷り込みます。
▲顔料を乗せ、「スキージー」というヘラで柄を擦る「手捺染」
捺染の特徴は、大量生産に向いていること。また、表面から染色し、生地の裏側まで染料が浸透しないため、表面と裏面のあるてぬぐいができます。てぬぐいの裏を見て柄が薄くなっているものは、捺染で染められたてぬぐいです。
今回ご紹介するのは、捺染の1つである「ロール捺染」という染色方法。柄や色彩を緻密に表現することに長けた技術で、専用の機械を使います。
早速機械を見てみると、長〜い生地がセットされ、円筒状の金型がぐるぐる回っています。金型が回ることで彫り込まれた溝に染料が入り、生地に柄が転写されるんですね。
▲金型はかなりの重さ。同じ柄でも1色ごとに型を用意し、絵柄が変わるたびにつけ替えます
工場では、何やらベテランの職人が真剣な顔で作業をしています。よく見ると、なんと刃を研いでいるではありませんか。
この刃は、金型の溝に染料が均等に行き渡るよう、余分な染料を掻き取るもの。手捺染のスキージー(ヘラ)のような働きをしています。
職人たちは染める柄に合わせて自ら研磨した刃をつくり、染料の供給量を絶妙に調整。職人になって最初の3年は、ひたすらこの刃を研磨するそうです。染めの技術に「研ぎ」の作業があるなんて予想外でした。
▲上が研磨した刃、下が研磨する前のもの。長年研ぐことで幅が変わっているのがわかります
染め具合を思い通りに調整できるマイ刃がつくれるようになって、やっと一人前の染工職人になれるそうです。
刃以外にも、職人はその時のコンディションに合わせて機械を数ミリ単位で調整し、最も美しいプリントを再現しています。機械のいたるところに重りや紐が張られていましたが、これもすべて職人が計算しつくしているそう。ロール捺染、奥が深いです。
次は「注染」についてご紹介しましょう。注染とは、その名の通り染料を注いで染める技法。1枚の布をじゃばら状に重ね合わせることで、20枚から30枚染めることができます。
注染の特徴は、一度に何色も染められること。捺染とは異なり、表面裏面の違いはありません。また、すべてを工程を職人が手作業で行うので、グラデーションやぼかしなど、独特の味を楽しむことができます。
まずは「板場」という作業場で生地を糊台の上に敷き、木枠で型紙を固定します。その上から、防染糊を木へらでムラのないようにのせていきます。
▲型紙は柿渋に漆を縫った伊勢型紙などを使用。糊が付けられた部分は、染料がしみ込んでいきません
▲糊をつけたら生地を折り返し、また糊をつける。これを何度も繰り返します
糊づけが終わると、折り重なった生地を染台に移し、染色したくない部分には特殊なのりで土手をつくり、あらかじめ防染します。ケーキのクリームを絞るようでちょっと楽しそう。
▲こうすることで、土手で囲った部分に染料を注いでもほかの部分が染色されることはありません
土手の中に「ドヒン」と呼ばれるじょうろで染料を注ぎ、生地の下からポンプを使うことで染料を染込ませます。この工程を受けもつ職人を「壷人(つぼんど)」と呼びます。
▲ポンプで吸引しながら染料を注ぐため、 生地の目をつぶすことなく、やわらかな風合いを保ちます
染めがひと通り終わると「浜」と呼ばれる洗い場に向かいます。 くっついた生地をほぐし、防染糊や余分な染料を洗い流します。▲この工程を受け持つ職人は「浜方(はまかた)」と呼びます
生地を十分に水洗いし、脱水機にかけた後はすぐに乾燥。「立て(だて)」と呼ばれる乾燥台に1反ずつ吊るす「立干し(だてぼし)」を行います。
▲10数メートルの高さから一枚一枚干していきます。思わず足がすくみそう
注染を行う染工場では、こうした立干しの様子を見ることができます。たくさんのてぬぐいが干され、たなびく様子は圧巻です!
乾燥を終えた布はシワ取りをして、寸法にあわせてカット。丁寧に畳まれ、てぬぐいの完成です。
みなさんが持っているてぬぐいはどちらの染め方でしたか?
「てぬぐいフェス」では、ご紹介した捺染や注染の体験も可能です。知れば知るほど面白いてぬぐいの世界、ぜひ堪能してくださいね。
(取材協力:竹野染工株式会社、株式会社北山染工場)